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私的工務店論・第5回「理念経営の実践」

新建ハウジング・プラスワン「私的工務店論・第5回」

 会社経営とは、成長への交換条件であるかのように、時折、難題や苦境への対峙を余儀なくされるものです。
 私も創業から数年間は何をやってもうまくいかず、なぜ自分だけがこのような不遇に追い込まれるのかと感傷的に悩むこともしばしばありました。やればやるほど試練に遭遇するのです。今だから言えることですが、きっと仕事の神様が見ていて、愚直に取り組むほど、経営者としての私の器に合わせた試練を与えたのだと考えるようになってきました。
 仕事は1人でできないことは頭ではわかっていても、失敗は許されないという焦りから、私はことのほか創業時の部下に厳しく接してきました。
 冷静に考えれば確固たる社内の人間関係が必要になることは言うまでもありませんが、思い描いたように仕事が進まないと最高責任者である社長という立場の焦りから、権力を振りかざし、組織が活性を失うほどの感情的な怒りだけをぶつけてきました。失敗を取り返そうと必死にもがき苦しんでいる部下に対し、追い討ちをかけるように罵倒し、その心の中を覗こうともしなかったのです。
 現状を打開するために生じた怒りに任せた感情的な言葉が、やがて両刃の剣になることに、私はまるで気付いていなかったのです。人は道理で動くものです。納得して行動しなければ、心のない仕事になるのです。

 いろいろ悩み、言い知れない思いが続いていた時のことです。公私にわたる親友が私をある心理学のセミナーへ誘ってくれました。そこには肩書きのない普通の人が何かを得ようとたくさん集まり、熱心に講義に集中していました。当初は半信半疑で参加したものの、受講後に今まで味わったことのない気付きを戴くことになったのです。
 それは「権力から魅力へ」という珠玉の言葉に凝縮されていました。経営者という鎧を纏ったひとりよがりで子供っぽい甘えの母子一体感という自己中心的な人間心理は、裏方で支える人たちに対する感謝の気持ちさえ忘れさせてしまうものです。何よりも会社や組織で働くのは機械ではなく、生身の人間であることに気付かなくてはなりません。「言われたからやる」では全く意味がなく、社員自らが「自分で考えて行動すること」が求められるのです。
 その時、自己啓発セミナーやビジネスセミナーで聴いた事業戦術や名台詞、必ず登場する成功事例などを会社に持ち帰っては、自分の言葉として血肉化する間もなく社員に押し付けていた自分が、いかに軽佻浮薄だったかを猛省したのです。それ以来、私が考え遂行する会社経営とは「経済学と心理学の融合」だと考え始めるようになりました。
 人の行動心理は「自分のため」「あなたのため」「世の中のため」と感じたときの方が大きなパワーを発揮するものです。プロ野球などで、「監督を胴上げしたい」と発言している選手の言葉を聞くことも多いと思います。人の行動の起源は、権力で抑え込むこともあるのではなく、リーダーの魅力が大切なのです。
 ここまで実践できたら、ただの仲良しクラブでは困ります。社員と共有する事業の目的が必要になります。我々の業界には何代にもわたり、事業継承をしている工務店経営者も多くいらっしゃいますが、社員は何のために働いているのでしょうか?家業に奉公しているのではありません。もちろん生活の糧を得るためというのが一般的な考え方ですが、大きく言うなら、住宅産業の未来のため、社会のため、世の中のためといったような大義名分が必要になると考えています。
 私はとかく色眼鏡で見られがちな現場監督の仕事を世の中から認知され感謝される仕事にするのだ、といつも社員と話し合っています。仕事という意味では、弁護士とも医者とも大企業のエリートサラリーマンとも全くわけ隔てのないアイデンティティーのある仕事だといつも言っています。
 私は、事業の目的(ビジョン)を社員ひとりひとりに落とし込んで、軸がぶれない確固たる行動指針につなげ、ベクトルを合わせていくためには、社是や経営理念が必要だと考えるようになりました。
正直に言いますと、私自身創業当時は、社是だの経営理念だのといくのは、どこかで少し恥ずかしいという思いがあって、否定していたこともありました。しかし、社員が増えていくうちに、理念なき経営は薄っぺらであることに気付いたのです。
 弊社の社是は「利他」です。自利、つまり自分の利益だけを追求するのではなく、相手の利益をまず考えることが大切だということです。「理を求むるは道にあり」という「先義後利」の精神がゴーイングコンサーン(企業永続)の必要条件になるという考えによるものです。商いに対するそういった考え方は、江戸時代の儒学者・石田梅岩が「誠の商人は先もたち、我もたつと思うなり」と説いた時代から脈々と受け継がれています。
 私はまず「利他」という社是を社内に浸透させるように心がけているといったところでしょうか。

 2月から5度にわたり本誌に「私的工務店論」を掲載させていただきました。三浦編集長をはじめスタッフの方々に、また私の拙文にお付き合いいただいた建築業を生業とする読者の皆様にも心より感謝申し上げます。
参創ハウテックを設立して、10年8カ月が経過しますが、この間経済状況の激変や様々な法対応など、住宅業界に限っても生態系が崩れるほど大きな出来事がありました。10年存続する会社は5% 以下といわれる中で、弊社も何とか生きてきただけに過ぎません。

 逆風の中、今後ともさらに学びを深め、理念を具現できる工務店に成長できればと、熱望してやみません。

清水 康弘

 新建ハウジング・プラスワン「私的工務店論」 2009年6月号 新建新聞社

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